今日は、とある本屋さんの取り組みの取り上げてみたいと思います。

まずは、1/16のMJの記事から

<選べぬ時代 目利きが頼み>
・かつて炭鉱の町として栄えた北海道砂川市に売り場面積130平方メートルほどの本屋「いわた書店」がある。
・一見すると何の変哲もない本屋だが、あるサービスを目当てに書籍の注文が全国から殺到している。
・そのサービスとは、「一万円選書」
・最近読んだ本のリストやその感想、つらかった事、うれしかった事などを書いて送ると、その人におすすめの本1万円分を選んで、送ってくれる。
・昨年夏に深夜のテレビ番組で紹介されたところ、翌朝までに200件近い注文が寄せられた。
・「10年ほど前から始めていたのに」と岩田徹社長。
・注文が後を絶たず、新規注文の受付を一時ストップ。
・年明けから再開したが、わずか数日で100件以上の注文が舞い込んだ。
・利用者は中学生から90歳まで。
・忙しくて選ぶ余裕がない会社員などが、人生の悩みを解決してくれそうな本との出会いを求めて申し込む。
・これまで雑誌を含め1万冊をよんだ岩田さん頭の中には、本に関わる大量の情報が蓄積されている。
・「ベストセラーという言葉が嫌い。世の話題にならなくてもお金を出して一日1,2冊と売れる本が何であるかを見極めている。」
・例えば中学受験の子供の悩みを抱えている人には、子供の心の声などを描いた絵本「はやくはやくっていわないで」を。
・忙しいサラリーマンには、近代化に伴い日本が失ってきたものの意味を問う「逝きし世の面影」。
・とてもいい本なのに忙しい人はまず手に取らない。だから、敢えて選ぶ。
・埼玉県に住む会社経営の中川透さんは2か月に一度、2万円分の書籍を注文する。
・若い時から給与の5分の1を本代に費やすほどの読書家。
・だが仕事が忙しくなり選ぶ余裕がなくなったことに加え、視野が狭くなり選ぶ本が偏ってきた。
・「自分ではまず購入しない本も多いが、つまらなくなって途中で読まなくなったことは一度もない」
・今やネットで本の売れ筋情報や個人の感想が簡単にみられる時代だが、本の読み手によって受け止め方は様々。
・「選ぶ自信がないので購入する本が偏る。情報が溢れる中で、信頼できる人の情報を求めている」と岩田社長は見る。

インサイトの深堀

この記事を読んで、どのようにお感じになったでしょうか?

①うちは本屋さんじゃないから関係ないや

②選べぬ時代なのか、確かにそうだなぁ。
うちは服屋だから、これを真似て、
1万円でお客さんにぴったりの洋服を選んであげます
ってのはどうだろう。

③うちはパン屋だけど、1000円でおいしいパンを選んであげます
ってやればいいのかなぁ。

①は、論外としても、
②や③のようにご自分の商いに結び付けて様々な思考を巡らせてみると
有益な気付きもあったのではないでしょうか。

そんななかで、注意したい点があります。

それは、現象のなかにあるインサイトを深堀してみる、
という姿勢です。

インサイトというのは、
簡単にいうと、消費者の本音というような意味ですが、
これらは通常語られないため、
深く洞察する必要があります。

インサイトというのは、
いわば、人間の本質ですから、
それほど、変わるわけではありません。

だからインサイトをおさえると応用が利きます。

逆にインサイトをおさえないと、
悪くするとまったく効果のない施策をしてしまう可能性があります。

私は、この事例では以下のようにそのインサイトを分析しました。

読書という個人的な体験は、それが個人的な体験であるため、
どうしても世界が狭くなってきてしまう。

知っている作家や分野にかたよってしまう。

しかし、本当に欲しているのは全然知らない作家・作品との
目の覚めるような出会いだったりする。

実は、自分の嗜好というのは、
知っているようでいて知らない。

というより、

上質な嗜好を他人に開発してもらえるのであれば、
それに対しては喜んでお金をはらいたい。

こういったことではないでしょうか。

これがそのインサイトであれば、
この事例がそうは簡単ではない
ということに気付くのではないでしょうか。

まず必要なことは、
売り手が、顧客から「上質な嗜好を他人に開発してもらいたい」
という期待をもってもらわなくてはいけません。

つまり、上質な世界を知っていて、
それが伝わる形で発信できていないといけないわけです。

そこまでそろっていて、初めてこのようなサービスが成り立つです。

ここまで洞察できれば、
形だけ真似ても決してうまくいかない、
ということがわかるでしょう。

例えば、②の洋服屋が、
予算をいいてコーディネートしてあげるサービスを始めたとして、
好きなタイプの洋服を顧客から聞いて、
それに近い洋服を選んであげたとしたらどうでしょうか?

確かに顧客にとっては、はずれはないかもしれませんが、
「上質な嗜好を他人に開発してもらいたい」
という希望はかなえられず、満足には至らないでしょう。

これだったら、自分で選んでもかわらないや、
となってしまうかもしれません。

それより、いつも選んでいるものと違うものを
敢えて選んで差し上げて、
そして、あらたな発見をしてもらう。
そういう方向でないといけないでしょう。

このように、この事象が持っているインサイトまで深く理解しないと、
施策の表面だけなぞってもうまく行かない
ということになるわけです。

③のパン屋の例でも、上質なスタイルを提案しているような、
そういったパン屋でないと、このようなことはうまくいかないでしょう。

そもそも、パン屋の場合では、均一価格というのには意味がないでしょう。

それよりも、

寒い冬は、このフランスパンを使ったオニオングラタンスープできまり!

というような
「嗜好を他人に開発してもらいたい」
という欲求に沿うような価値提案をするのが、
この記事の教訓なのかもしれません。

おまけ

わたしも洋服を買ったりするのですが、
この人(店)に騙されてみようかな
という気持ちが服を買う場合往々にしてあります。

これは、「嗜好を他人に開発してもらいたい」という前述のインサイトに通底します。

しかし、どうしてもピンとこないというか。

そこで相談しようにも、
それにふさわしい店員さんがいなかったりすると、
エイヤで決めてしまったりします。

今まで買ったことのないようなタイプの洋服を買う場合は特にそうです。

そして、買った後でその良さが分かったりする(笑)

このあたり、実にもったいないなぁと思います。

折角、価値のあるものを売っているのに
その価値が伝わらず、顧客に店先でギャンブルさせている。

もちろん、服を買うということは
一定の冒険の要素はありますが、
一人で冒険に出て行っていただくのではなく、
せめてガイドという役割を、店は担うべきであるでしょう。

ちょっとしたポップなどで新たな価値提案がなされていたら
随分買いやすかったのではないかと思います。